思いつき短編小説

イレイジングレイス

めりねこ

青空

目覚ましがわんわん泣いている。僕は手を伸ばしてそれを止めてあげた。いつもうるさいね、君は。

そう言いながら立ち上がり、消えたり点いたりするテレビを通りすぎ。お喋り上手な冷蔵庫を開ける。

冷気と共にいい匂いがする。見ると、奥にくらげが三匹いる。どうりでいい匂いがするわけだね……。
僕はくらげを両手で掴むと、窓を開けて放してやった。くらげはふわふわ宙に浮いて、風と共に去っていった。

くらげが去っていったのを確認した僕は窓を閉めて、お喋り上手な冷蔵庫からタバコ取り出しそれを口に銜える。よく冷えてるなぁ、まったく。そう言ってたばこに火を点けて。点いたり消えたりするテレビの前をまた通りベランダへ。

ベランダは見晴らしがよくって、今日なんか晴れてるから隣の国のバーガーショップの看板だって見えちゃうくらい。目線を下ろせば、マンションに誰かが入っていくのが見えた。きっとあれは幽霊だろうな。よくわからないけど、なんとなくそう思った。

めんどくさいな……。僕はそう言うとベランダにあったスケートボードを持ってベランダを飛び降りた。風にうまく乗り僕はマンションの入り口へ。

うまく着地し、まさにマンションに入っていく幽霊の肩を捕まえた。幽霊がこちらを見る。髪は銀色の長髪。年は二十代後半ってところかな。
「俺は鳥なんだ。邪魔をしないでくれ」
幽霊はそんなことをいったけれど、僕は肩を放さなかった。

「放してくれよ」
長髪の幽霊は言う。そしてそのまま男は僕の手を振り払おうとする。駄目だよ……君は逃がさない。僕はそう言うと肩を更に強く掴む。
「痛いだろ……早く放せよ……」
そう言うと長髪の幽霊は僕の手を完全に振り払う。 逃がせないんだよ……駄目なんだよ……。僕はそう言うと軽くスケボーに乗り、長髪の幽霊の前へ。

幽霊は、それはもう不機嫌な顔をしていた。もし彼に導火線がついていたなら、きっとつけられた火は導火線の根元あたりまで達していた事だろう。
突然、幽霊は軽やかな身のこなしで宙を舞った。と、気付いた時には後ろを取られていた。まずい!

「めんどくさい……お前ほんとめんどくさいよ……」
そう言うと幽霊の背中から急に翼が生える。
「残念だったな。いやほんと残念だったな……」
そう言うと幽霊は上を向き飛び立つ。幽霊はマンションの壁をすり抜けて行く。
待て! 僕はそう言うとスケボーを上へ投げ飛び乗る。逃がさないよ……絶対。そう言うと風に乗り僕はマンションの上へ行った幽霊を追う。

そこはマンションの屋上だった。フェンスの脇には不格好な機械が設置されていて、一定の音量でうなり続けている。その隣には丸いタンクが数個並んで座っていた。
幽霊はそのタンクの上に立っていた。僕が到着したのを察したのか、軽くこちらを見て、また後ろを向いてしまった。
僕はスケボーのホイールを全て取り外し、剣の様に構えた。

行くよ! 僕はホイールに話しかける。するとホイールに口が出てくる。僕は右手に持っていた二つのホイールを勢い良く幽霊へ投げる。すると幽霊は二つのホイールを軽く受け止める。
「なんのつもりだよ……あんた……」
幽霊振り向き問いかける。いやぁ何、ただの……

「街の清掃屋だ!」
僕は一気に幽霊との間合いをつめた。目の鼻の先に幽霊の顔がある。
幽霊は勢いよく拳を振る。それを左手で受け止め、右手で背中に背負っていた掃除用ブラシを構えた。
「ま、まて!」
幽霊はおびえた表情で言う。けれど僕はそれを無視してブラシを振った。
「イレイズ!」
一瞬、激しく光があたりを包む。それが収まる頃には、幽霊はいなかった。
「一丁あがりっと」

おわり