思いつき短編小説

DEATH COIN

めりねこ

青空

僕は何時も通りの学校帰りの帰り道を歩いていた。何も無い空き地。有り触れた風景の中で僕は毎日を過ごしていた。つまらないという思いは毎日の様に僕の胸を過ぎり。ニュースで放送される事すべては僕の娯楽へと変わっていた。そう殺人事件だとしても。

テレビから流れるシンセサイザーの音さえも僕にとってみれば子守唄だ。蛍光灯の明かりは太陽だったし、焼きたてのパンは生まれたばかりの赤ん坊そのものだった。
新聞の上で踊る文字の羅列。音宮木小学校で同級生殺害かあ。どうやらお祭りでもあったみたいだ。僕は押入れから半纏を取り出し、いそいそと着始めた。

着替えを終えた僕は外へ出て自転車に乗る。少しでも違う風景を探しに行くのだ。少しこいだ所の信号で止まる。

赤と緑と、黄色のかかった黒と、白の中に青い斑点のある信号がチカチカ光っている。信号は黄色のかかった黒を示していて、目の不自由な人のための音楽を奏でた。この曲はマツケンサンバみたいだ。やがて信号は赤になった。僕は再びペダルをこぎ始めた。

何もない商店街。チカチカと赤と青のライトが入り混じってあたりを照らす繁華街。誰もが涙を流すと大きな見栄を張った看板がある映画館。やはりつまらないな。何時でも行けて何時でも会える風景ばかり。その時、映画館の中がざわめき始めた。

大勢の人が映画館から飛び出してきて、その場に倒れる。映画館が人を吐いている、といったほうが正しいかもしれない。映画館の看板のネオンが何度も点滅した後、破裂していった。辺りは倒れた人と砕けた電球の破片が散乱している。僕は破片を一つ拾い、足元に倒れていた人の首筋に刺してみた。

と、その人の首筋から血が出る。何が起きたんだろう。僕は自分がおかしな事をしながら何故人が出てきたのかを考える。すると銃を持った犯人らしき人間がおびえた表情で飛び出してきた。
「た、助けてくれー」
銃を持った男が叫ぶ。
「だ、誰か助けてくれー」
そしてその跡に男は目と口から血を出し倒れる。するとまた映画館から人が出てくる。そいつは異様な光を放つ指輪を両手にしていた。そしてその男は笑いながら映画館を後にしていった。

しばらく商店街は騒然としていたが、少し遅れてゴミ収集車がきたので、いつも通りの風景に戻った。軽快な音楽と共にゴミ収集車の中に人が投げ込まれていく。けれど、一緒にくまのぬいぐるみも投げ込もうとしていた作業員がいたので、それは流石にひどいんじゃないかと住人から文句を言われていた。

その文句なんてそっちのけで僕は男のつけていた指輪が気になった。今はもう殺人事件などは気にはなって居なかった。あの男が付けいた指輪が異様な光を放ったとたんに男は死んだ。もしかしたら、あの指輪には殺傷能力があるのか? だとしたらおもしろかもしれない。僕はそんな事を思いながら死んだ人間を掻き分け男が何か落としてないかを確認した。

予想は的中した。太ったおばさんの死体の下、丁度でっぷりとしたお腹と地面に挟まれた形でそれは落ちていた。――コインだ。
おばさんを蹴飛ばしてどかした後、コインを拾う。大きさは五百円くらいの、金色のコインだ。ピエロの絵が刻まれていて、目が合うとにんまりと笑う。僕はすぐにそれをポケットにしまうと、自転車に乗ってその場を後にした。

ふふふ。これはいい物を拾ったかもしれないぞ……まずはちゃんとこれを知る必要があるな。そう思いながら僕は家へむかった。

自転車を止めて、家に入ろうとした。けれどドアの前に人がいて、こちらに向かってくる。
その人は男だった。深めの帽子をかぶっている。男は羽織ったコートの中から赤と青で構成されたカードを出して見せてきた。……こいつ、警察だ。

男は僕の目の前に立ちこう言った。
「お前はすでに容疑者の中からはほとんど抜けている。だが私達はまだお前を1%程度の確立でも怪しんでいる事を忘れない事だな」
そう言うと男は去っていった。僕は男が去ったかを念入りに確認し家へ入る。早速ポケットからコインを取り出しそれを念入りに調べて見ることにした。

コインはそれなりの重量がある。別に重いわけでもないが、何か力がこもっている感じはする。表にはピエロの絵。裏には星の絵が刻まれている。
あれこれ調べても、それ以上わかったことはなかった。せっかく見つけたのにな。何気なくコインを指ではじく。宙でくるくる回って、床に落ちた。コインはピエロの面を向いていた。
あれ? もう一度コインをよく見てみる。ピエロの顔が違う。泣いているのだ。

ピエロが泣いている。すると家の玄関の方で悲鳴が。なんだ! 僕はそう言うと急いでコインを拾い玄関の方へ。するとそこには父が血だらけで倒れていた。父さん! 僕は涙目で父へと飛び寄る。母はすでに救急車を呼んだらしく救急車はすぐ来たが父は助からなかった。
僕は病室で父を前に、涙で目の前が見えなくなった。その時ポケットのコインは喋った。
「ケッケッケ、しかたねぇよなぁ、俺をはじいちまったんだからだからよぉ」
そしてコインはこうも言った。
「しかしこの代価はかなりデカイぞ。それなりのテメーの願いは叶うから安心しな」
そう言うとコインは僕に問いかけた。
「何がほしい? 何が望みだ!!」
コインは僕に畳み掛けるように問いかけた。父さんを父さんを生き返らせてくれ! 僕は叫んだ。
「おっとそいつは無理なお願いだ。同等の代価は必要だが代価をもう一度再生する事は不可能だぜケッケッケ」
ちなみに裏はなんだったんだ? 涙ながら僕は言った。

「俺の裏は星。この星は希望の星さ。望みなら代価の関係なしに叶える事ができるのさ。もちろん悪いことはできないぜ。希望の星、だからなぁ」
僕はハッとして顔を上げた。じゃあ、コインを弾いて、星の面をだせば、父さんを生き返らすことだってできるじゃないか!
親指の上にコインを乗せる。その時、ピエロがまた口を開いた。
「おいおい、いいのか? もし、また俺の面になったら、今度は何が起こると思う?」
顔から血の気が引いていくのがわかった。

それでも僕はこの腐りきった世の中の中で少しでも悲しめる事ができたんだ。その悲しい出来事を唯一変える事のできるのがこのコイン。今は振り返るなんて言葉僕には無理なんだ。大丈夫、確率は2分の1だ。なんとかなる。いや待てよ。僕にはさっきの代価が残ってるはずだ。これをうまく使えないか……そうだ。他の奴にコインを使わせる事ができれば。問題は父の死と他の奴に使わせてそいつの星を僕にまわせれば父は生き返らせれる事になる。それをピエロに頼めればきっと代価の天秤をつりあわすためには更なる代価が必要なはずだ。どうすれば……。

その時、突然ドアが開かれた。そこにはさっきの刑事が立っていた。後ろには数人の警察官がいる。僕はコインをポケットに隠し、刑事に向き直った。
「さっき、亡くなったよ」
刑事が言った。亡くなったって、何が?
「君は映画館から逃げてきた人間を一人、殺したね。電灯の破片を首に刺して」
何をいっているんだ、こいつは。あの人間達は、もう死んでいたじゃないか。刑事はまるでこっちの言いたい事が全て分かっているかのように、ゆっくり頷いた。
「あの時点では、まだ死んでいなかったんだ。でも、君がトドメを刺した訳だ」
そんな馬鹿な。思わず、ポケットの中のコインを握り締めた。

そんな馬鹿な事あってたまるか。僕が殺しただって。こいつ何を言ってるんだ。しかしまずい、コイツが言ってる事が本当だったらまずいな……このままでは僕は豚箱行きだ。あの時はつい気が動転して自分でも何をしたかわからなかったんだ。苦しい言い訳だ。
「冗談のつもりだったんだがな。言っただろ? あんたを1%でも怪しいと思ってるって」
刑事が言う。まずい、試されたのか……このままでは焦った僕が怪しい。あの時の殺人は僕の反抗ではないはずなのに……。
「どうした?顔色が良くないぞ? まずい事でもあったか?」
刑事は少し笑った表情で言う。コイツ調子に乗りやがって……コインの力で……いや、コイツを今殺すのは更に状況を不利にさせるだけだ。ここは耐えるしかない。

刑事は後ろの警官に指示を与えている。これから僕を逮捕するつもりだろう。
その時、ポケットの中のコインがわずかに震えているのがわかった。何か言いたいのだろうか? 僕がコインを握ると、ピエロの声が頭に流れ始めた。
(お前は二人殺したわけだ。願いを言わなくていいのかい?)
僕は刑事を睨んだ。刑事は手錠を持ってゆっくり歩いてくる。僕はコインを持つ手を突き出して、叫んだ。

よく見ると後ろの警官はオドオド゙していて新米警官のようだった。そこを利用したのである。
「お前は銃を取り出し、僕の目の前に居る刑事の頭を撃つ!」
僕は新米警官に対してそう言った。そう言った途端。
「う、うぁぁぁぁぁぁ!」
新米警官は刑事に向かって鉛の銃弾を一発撃ちこんだ。
これでコイツは自分の先輩を殺したと言う精神的ダメージが襲うだろう。
(こいつは凄い奴に拾われたようだぜ……ケッケッケ)
「ち、違う……そんなつもりじゃ……」
新米警官はその場から逃げるように立ち去った。
これで一時的に僕は逮捕をまぬがれた。そして僕から目線はアイツに向くだろうな。しかしそれは一時的だ。なんとかして犯人を捜す必要がある。とりあえず僕はこの場から去る必要があるな……。
父さん待ってて。必ず迎えに来るから。

おわり