思いつき短編小説

空のお茶会

めりねこ

青空

「ははは」
と、彼が。

「へへへ」
と、太陽が。

「ふふふ」
と、月が笑い、

「ほほほ」
と、海は笑顔を水面に映し出した。

海に隠れた太陽が、お茶会の終わりを告げた。
月はゆっくり空に上り、太陽は沈む。

太陽が月に変わるように辺りの風景色も大きく変わってゆく。
月は次のお茶会を楽しみに今を過ごそうかと心で歌う。

月の光を受ける海も、いつもどおりの静けさを取り戻していた。
満天の星が輝く中、浜辺には彼だけが残った。

一人が好きだと毎日呟く彼。
涙は枯れ。気づけば血の涙を流し、止んだハズの涙がその跡を残す。
辺りを見回してはため息をつく。
何を探しているので無く。ただ彼は一人だった。

月に一度だけ、そのお茶会は開かれた。
月と太陽と、海と彼の。
それは唯一の心の拠りどころであったし、それ以外はなかった。

そう何も無かった。
日がな一日海を見つめるだけだった。
問いかけた海は何も答えてくれずにただ漣の音を響かせた。
そしてまた彼は一人に耐え切れず涙を流す。真っ赤な涙を。

月に一度のそれが終わった後、力なく浜辺を歩く。
残された足跡は、すぐに潮が消し去っていった。
たまに、海に乗って様々なものが届く。意味を持たないごみであったり、流木であったり。
しかし、その日は違っていた。

透き通った瓶の中に薄汚れた紙が丸められ押し込めれらている。
砂の中へ入り込み潮にも流されなかったのだ。
彼はそれを手に取り、中の紙を開いてみる事にした。

それは手紙だった。
インクで文字が綴られている。所々失敗したのか、黒く潰された場所が目立つが、それでも一生懸命書かれた事がわかった。
文章に目を通すと、そこにか以下のような事が書かれていた。

大事な大事な空へ。
ちっぽけなちっぽけな僕が。
人一人として歌を綴る、彼方へと願い綴る。
"大事な大事な彼方へ"
何時かは何時かは流れて。
時が解決するわだかまりを残して。
むやみやたら手を振り回してみても。
何時もより強気になってたとしても。
変われない、譲れない物があるとするなら。
彼方しか、彼方でしかないと思うんだ。
思うんだ。思うんだ。思うんだ。思うんだ。
そう、感じるままに生きれば良いと思うんだ。

彼は手紙を読み終えると、それをポケットにしまった。
何故かわからないが、それは特別な何かだと思えた。外へと繋がる一つのアイテムにも思えた。ともかく大事な何かだとも思えた。
それから彼の日課に、海を眺める事のほかに、手紙を読む事が加わっていた。

でも彼は手紙を見る度思う事もあった。
"大事な大事な彼方へ"
彼にとってこの文章の意味が理解できなかった。
大切にするのはもっと他にもあるだろ! と。
しかし彼は考えるたび彼自身が大切にしたい物が言葉にならない。
いや、無いと言った方が正しいのだろうか。
そういう疑問が増えてゆく度に彼の毎日は過ぎていった。

そして、再びお茶会がやってきた。
太陽は笑い、月は微笑み、海は笑顔で、彼もうれしそうに笑う。
そうだ、みんなにも手紙を見せてあげようと、彼はポケットから手紙を取り出した。常に持ち歩き、何度も読んだ手紙。
太陽と月と海は、浜辺に広げられた手紙を読んだ。
しばらくして、月が神妙な面持ちで言った。
「前に君が出した手紙に、よく似ているね」

おわり